魚野真美 詩舎 夜の目撃者

詩と、その周辺について。

森の神様

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森を歩いた
糺の森を歩いた
雨が降っていた
人がたくさんいたのに静かだった
橙の傘を天に差した
蝉達がぎゃんぎゃん泣き喚いた
ひゅうっと冷たい風が吹いた
首の後ろの窪み雫が落ちた
やがて幹や草葉に光の螺旋が降りてきた
森にちいさな神様がたくさん集まっていた
いつも親しくしているひとりの神様を探した
どこにもいなかった
疲れたので木陰で休憩した
仕方なく別の神様と缶コーヒーを分け合った
神様の耳の後ろにある虫刺されに触れようとした
だけど触れずに
空き缶を捨てて神様にさよならは言わずにバス停へ向かった

LyricJungle18号より