魚野真美 詩舎 夜の目撃者

詩と、その周辺について。

坂の街を歩くようなリズミカルな詩群―海東セラ詩集 『キャットウォーク』―

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海東セラさんの詩を初めて読んだ時
すごく嬉しかったのを覚えている。

天牛蟲への感想をいただいたとき
風景のあり方についてコメントくださって
視覚的なところとか
読むときのことばのリズムとか
そういったものの感知感覚が
心地よかった。気持ちよかった。
もしかしたら認知の仕方が似ているのかも
失礼に値するかもしれないけれど
そう思うことができた。

※  ※  ※  ※

詩集『キャットウォーク』は
静かな装丁のなかにある
灯火がとても強く、熱く
ゆらゆら揺らめいて消えそうにない炎

詩のなかの人物や物体が
しっかり意志や意味を持ってひとつひとつ
輪郭を形取っていっている
淡くない、しっかりと、色のある言葉たち。
だからすごくおもしろい。
「虹の目」という詩が好きで
野薔薇のアーチのむこうに女がいて火を燃やしている
という始まり方から女の復讐や嫉妬心を感じて
でも、恐ろしさとかそういうのは詩からは感じない。
「女は火をみている 手の中にあるものを 炎にくべて ひとつ焼いては 燃えつきるまでみつめ」
「ミント色に透けてゆく アーチをのぼり 薔薇の水をあびる ぴょんぴょん アマガエルになってあたしの ちいさなからだは 這いのぼる」
という「ミント色」「ぴょんぴょん」「アマガエル」などの言葉にその場の空気を柔らかさや愛らしさの表現があって、それが詩をただただ鋭敏なものだけにしない、詩の世界のつくりかたのこだわりというか、配慮が感じられて、詩をやわらかくしているような気がします。

「バザール」の作品ほか、行わけせずに言葉を埋めて書いてゆく散文体のところでの単語のチョイスなど新鮮で楽しかったです。
「ハンドバッグ肘にかけて陸橋をわたり、分岐するレールをつづく、いかめしい時をまたいで雑踏のアーケードへ、連結器でつないだディーゼル列車とおりすぎて、血の匂いがします、汽車博覧会つらなってくる、ずいぶん深いところ、試みに落としてみる(以下略)」など、一瞬和合亮一の詩集『誕生』を思い出された。和合亮一散文詩体の詩は唐突に現れる単語と単語の支離滅裂風の組み合わせが新造語のように迫ってくるようなそんな詩風の頃の書き方に似ているように感じました。

「犬を探して下さい、探して下さいよ。」
ぼ、僕の理想の犬は是非とも探して下さい 僕の家を泥だらけの革靴で散々踏みにじっても良いのです
ま 窓の裏側で 穴だらけの挨拶が燃えている休日に 一斉に葉を揺らしながら樹木が ゆ 行方をくらま しました 手のなかで 川が増えています
僕の愛玩動物は だから是非とも探して下さい 探しなさいよ(以下略)」 和合亮一『誕生』より

詩の風景、言葉の高低差をかんじるリズミカルな詩と言葉について、海東さん自身から坂の街に住んでいるとのことで、詩人の言葉と周りの風景、環境とは切り離せないものなのかもしれないとも思いました。

そのほか「キャットウォーク」「アリゲーターペア」などの詩が刺激的で、単語自体が普段使わない聞かない組み合わせない単語たちが多かったのでおもしろく読ませていただきました。
きっと自分とは違う生活圏、環境で生きている人だけれども、言葉を選び出し配置する感覚がすこし通じるものがあってだからこそ心地良いのだと感じました。