魚野真美 詩舎 夜の目撃者

詩と、その周辺について。

愛と欲望を慈しむマリアの言葉―ちんすこうりな詩集 『女の子のためのセックス』―

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ちんすこうさんに初めてあったとき
とてもキュートで素敵な方だと思った。
第一詩集『青空オナニー』がとても鮮烈で
とても素直でとてもキュートでとてもジェラシーを感じたのを覚えている。
とてもが多いけれど
ちんすこうさんには『とても』という言葉が似合う。つまりすこし『過剰』で『過激』にみえてしまう。

※  ※  ※  ※

第二詩集『女の子のためのセックス』は
『青空オナニー』のサンサン太陽眩しいな!というような明るさからすこし距離が出て
日陰で感じるすっと冷たい
しっとりと湿ったイメージを内包している。

わたしはちんすこうさんの詩がすきだ。
初めて読む人にはびっくりすると思う。
拒否する人だっていると思う。でも。
だからこその
あっけらかんとして
絶対的な強さがある。
純真であるがゆえの
強さと脆さと
でもってそれは、覚悟なのだ。

わたしはこの詩がすきだ。

「おしまいの日」

世界で
たった一本勃起して
私という存在を
はかない
望みのように
あたたかく照らしてくれていた
ちんこが
ゆっくりと頭を垂れるように
完全に
地を向いた日

お疲れ様

辺りは
静まり返るだろう
それは
祝福だ

私には性器しかない
ノートの片隅に小さく書いた
制服姿の私が
遠くで抱きしめるように微笑んでいた

さむいな
こんな日が
くるんだ

数えきれない男の人たちが
透明な上着をかけてくれる
股の間はまだあたたかい私は
皺をたくさん作って
微笑み返す

おしゃれをやめ
笑顔をやめ
エアロビをやめ
陰毛を整えるのをやめ
アンアンのセックス特集を読むのをやめ
ほとんどのことをやめる
お祝いだ

おばさん友達と蟹食べ放題に行くだろう
食べて
無口になって
幸せねえと呟く
食べながら泣ける
夢中で
いっぱい
食べる
いっぱい食べて
幸せになる
幸せになる

(全文)

あるひとつの決意した日
あるひとつの決断をした日
彼女は幸せになる、と誓った。
幸せを幸せと呼べるように。とても切なくなる。女の子のためのセックス、それは幸せのための犠牲と幸せのための決意と、幸せと呼べるようになろうとする私自身との身体を超えた対話だとおもう。

本当に好きな人と幸せになること。
それって当たり前のように聞こえるけれど
好きな人が幸せであるために自らを安く売らなければならないこともある。代替の幸せを手に入れてちゃんと愛そう、大事にしようと思う。代替だったけど、安定した幸せ。大事にしなくちゃという思いと取り戻せない幸せならば、現状をとるのだろう。

なにかの犠牲の上に自分はいま、立ってる。全てのことを忘れるために人は絶頂を求める。
そんなことをわたしはちんすこうりなさんの詩を読んで思う。